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2021.08.2419:08

初期のイナイチ(LIVE) | アルバム制作にあたって

前述の通りサブスク無料配信キャンペーンに乗っかって2週間ほどで作ったアルバムだったが、ライブ盤を作りたいというのは私達の予てからの願いであった。

本当は飽き性・近況報告の全曲を網羅するアルバムにしたかったのだが、飽き性は聴くに耐える音源が残っていない曲も多かったし、「梔子のミルク」に関してはまだ一度もライブでやっていないので、諦めた。

私はライブ・アルバムが好きなのでいろんなミュージシャンのライブ盤を無意識下で参考にしてはいるのだが、特に意識したのは銀杏BOYZのBEACHと9mm Parabellum BulletのGreatest Hits初回限定版Disc2、Number Girlの記録シリーズである。

ライブ・アルバムでありつつコンセルトアルバム、という点はBEACHにあやかりたかったし、メチャクチャな音源をなんの臆面もなく入れてる感じは9mmにあやかりたかったし、ファンが聞いて嬉しい掘り出し物感はナンバガにあやかろうと思った。

本当はもっとアイフォーンで適当に撮っただけのライブ映像から引っ張ってきたりして、いろんなライブ会場のやつを入れるつもりだったのだが、アマチュアが作る一枚目のライブアルバムでそれをすると単に技術不足による低品質のように思われそうだったので、今回は私の中で最低限、を保っている音源だけを選んで(当社比)収録している。

アルバムタイトルに関しては、台風クラブの丸パクリである。しかも私達はちゃんと台風クラブを聴いていません。本当にごめんなさい。
でも「初期の台風クラブ」というアルバムタイトルに関しては心からのリスペクトを持っているので、許してください。

「初期の台風クラブ」を友人からおすすめされたとき、ヤラレタ!という悔しさを感じてしまった。そのときにはすでに私たちは飽き性も近況報告も出してしまっていたし、もう使える機会はないなぁ…と思っていたのだが、ライブアルバムの話が俄に持ち上がったので、これがラストチャンスと使わせてもらった…。台風クラブはスタジオ・アルバム、171はライブアルバムなので意味合いも結構違うし、という言い訳。
『売れる前のイナイチ』というもっとヤバい案もあったのだが、逆張りオタク感がでかすぎるので却下されることとなった。
(追記:台風クラブに関しても、RCサクセションの1stアルバム『初期のRCサクセション』が元ネタではないかとのご指摘をいただきました。じゃあパブリックドメインってことでいいでしょうか?笑 ご教示いただいたminceさん、ありがとうございます!)

本当はジャケットも「初期の台風クラブ」のオマージュっぽいやつにするつもりだったのだが、ライブ写真を使ったほうが素直にかっこよかったのでそうさせてもらった。
この写真は2020年3月の今は亡き神戸StarClubでのライブで、暮らしや六甲CITYのPVでもお世話になったカメラマンの蛍ちゃんに撮ってもらったもの。
私が無能なせいでジャケット使用も配信開始してからの事後報告になってしまった(←オイ)のだが快く承諾していただいて、ほんと、ありがとうございます!

後ろに(LIVE)とついているのは、TuneCoreの配信規約の関係。ライブアルバムにはこれをつけないと審査に通らない笑
どうかと思うが…まぁタダで配信させてもらってる以上文句を言っても仕方ない。本当は曲のタイトルも『エネルギー不足 @京都GROWLY 2020/11/14』みたいな短い形にしたかったのだが、これも審査で一度落とされてしまった。

さて、ライブアルバム、ライブアルバムや記録映像はこれからも精力的に出していきたいと思っている。ロックバンドのライブを小さめの箱で見たことがある人ならわかると思うが、生でライブを見るというのは、イヤホンで聴くのとは全く違った体験だ。

そもそも私はロックバンドはライブがカッコよくてなんぼだと思っているし、イナイチの曲はライブ感を最も重視してミックスしてはいる。
音を割ったり、ファズを踏む部分で全体を歪ませたり、ギターがデカかったり、ミスをそのままスタジオ盤で収録したり、そういう試みは全て「生で171を見る感覚」に近いものを2MIXに落とし込もうとしてやっている試行錯誤ではあるし、このアルバムもそういう思想のもと、それなりに汚いアルバムとして小綺麗には仕立て上げなかった。

それでも、どんなに臨場感のあるスピーカーでも、どんなに生っぽいミックスだろうと、マーシャルキャビネットから直接耳に振動が飛び込んでくるあの感覚を再現することはできない。これはもうわかりきった話、手を伸ばしても解散したバンドのライブには行けないし、失った青春と衝動がそのままの形で蘇ることなど有りはしない。

「ライブ感」をレコーディングというフォーマットに落とし込むことに私は人生をかけたいと思っているし、360°カメラで撮ってVRで見れるライブ映像を作るとか、パートごとに演奏データを作って別々のスピーカーで鳴らすとか、今後やっていきたいと思っていることは色々あるのだが、まずは目下いいライブをして、なるべくあとからミックスしやすい形で残していくことかなあと思う。

満足いく音源がまた溜まってきたら、ナンバーガールの記録シリーズのような莫大なライブアルバムも集大成として作っていきたい。MTR買わんとあかんなぁ。京大熊野寮や京都工芸繊維大学に呼んでもらったときの記録や、我々の初ライブの記録なんかは、またそのときまで取っておこうと思う。

我々は時代遅れの泥臭いロックバンドだが、これからも現代を生きていきたいとは思っている。
我々にはデジタルネイティブとしての知識と経験があり、仲間がおり、パソコンが有り、スマホがあり、インターネットがある。
単なるアマチュアでも少しの労力をかければ2週間の準備期間でライブアルバムを世界中に配信できるのだ。
古臭い音楽をやっているからこそ我々は情報発信の方法や、ミックスの傍若無人さ、活動内容、思想、様々な点で開拓者でありたいし、こうした裏話も含めて作品そのものがいつか先人の轍の擦りの一つとなってくれたらいいなと思っている。
まぁ実際我々はそこまで言うほど特別なことをやってきたわけではないのだが、、、

そういえば、今回私が思想上の理由で行った小さなことが一つあるので自慢しておこう。

サブスクの歌詞の配信には歌詞の間違いやMCなんかも同期させて『歌詞』として流れるようにしたのだが、これも実はガイドライン違反笑 ただこっちは審査をすり抜けつつあるらしい。
MCまで文字起こししたのは、まぁウケ狙いという意味も大きいものの、日本語話者ではないリスナーへの配慮をしたかったから。
私が洋楽のライブ盤やライブ映像で一番気に入らないのが「MCが聞き取れない」という問題である。

文字にさえしておけば今の時代なんとかしてDeepLにでも突っ込める。
少なくとも私は、セックス・ピストルズのライブMCを英語の音声認識ソフトに聞き取らせて文字起こしを試みたことがあるくらいなので、いくらか労力をへらすことができるだろう。

投げ入れる川にも届かないような弱々しい一石ではあるが、非英語圏に生まれた人間の意地として、非母語話者の存在の認知、非母語話者へのかすかな蜘蛛の糸は、私ができる限り垂らしてやりたいと思っている。
曲のPVに英語で字幕をつけているのも、英語圏の人間だけではなく、非英語話者へも配慮をしたいから。残念ながら世界中の言語でまともな翻訳を構築することは今の私には不可能だ。

例えば日本人が韓国語の曲を聴いて、歌詞を理解したいと思ったとき、文法も単語も知らない韓国語を翻訳ソフトで訳した日本語を読むよりも、歌詞を書いた本人が監修して作った英訳を四苦八苦して読むほうがまだ誤訳が起こりにくいのだ。
そういう意味において世界共通語としての英語を使わざるを得ないのは悔しいわけで、 アメリカとかの人間に聴いてもらえる気でいるの?笑みたいな目で見られるのも分かっているのだが、これは欧米への私のささやかな反抗なのである。ほうっておいてくれ。

いつかこの小さな火種たちが数多の屍とともに積み重なって積み重なって積み重なって、ホワイトハウスを、BBCを、日本政府を、カリフォルニアを、ロックフェスティバルを、法律を、大火となって脅かす日を心待ちにしている。

これからも我々は我々の思想をもっと見つめ直して、凝縮させて、様々な形で情報媒体に詰め込んで、現代の世界に放流しまくって行きたいと思う。
その破壊工作の重要なステップ、171の初期の活動におけるセーブポイントとして、いつの日かこのアルバムは我々の振り返る足跡になるだろうし、いつの日か、どこかの誰かにとっての道標となってくれることを心から願っている。

2021年8月24日 文責:田村晴信

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